2017年01月31日
(続)予後の悪い膵臓がんへの挑戦
(続)予後の悪い膵臓がんへの挑戦
前回の記事からご覧いただけたら幸いです。
5年生存率20%を達成した尾道方式
尾道市の広島厚生連尾道病院と尾道医師会が連携した「早期膵がんスクリーニング事業」の結果が発表されました。(日経メヂカルCancerReview,カバーストーリー1、2017年1月)
まず、危険因子を持つ人に市内の開業医で腹部超音波検査を受けてもらい、疑わしい症例を病院で精査するシステムを作りました。病院ではEUS(USを先端に付けた内視鏡)とCT等を行います。この結果2007年から2014年迄に6475人の疑い症例から399人のがんを発見しました。早期はⅠ期16例、Ⅱ期は17例でした。そして5年生存率約20%を達成しました。全国平均が7.5~7.7%ですから、非常に高い生存率です。
又、スウエーデンの会社と連携して早期(腫瘍)マーカーの探索にも取り組んでいます。連携先のImmunovia社のBorrebaeck氏は、「手術可能なⅠ/Ⅱ期患者に特徴的な25種のタンパク質を特定し、この時期の膵臓がんを96%の精度で検出できる事を確認した。」と述べています。
膵臓がんの高リスク(危険因子)の人とは
膵臓は血糖と密接に関連しています。膵臓がんから糖尿病を発症した人もいますので、糖尿病と診断された人はUSとCT検査を受けることをお薦めします。糖尿病(治療中の人も)が急に悪化した人、慢性膵炎の人、家族内に膵臓がんのいる人も高リスクです。
膵臓がんの予後改善に光明が見えてきた!?
「遅くとも手術不能になる前にみつけたい。」という尾道病院の花田氏らの思いと努力が生存率の大きな改善に繋がったと思います。
症状のない高リスクの人に検査を受けてもらうことがまず第一ですから、一般開業医、特に消化器医の努力が大切です。USは苦痛の無い検査ですが、膵臓はその位置関係から描出が難しい例もあります。市民への啓蒙と、確かなUSの技術と読影力を持った医師の拡充、確保が必要です。この尾道方式が全国に拡がつて膵臓がんの予後が改善される事を願っています。又、新しい腫瘍マーカーが早く実用化されて、臨床の場に登場することが期待されます。(文責 篠原)
前回の記事からご覧いただけたら幸いです。

尾道市の広島厚生連尾道病院と尾道医師会が連携した「早期膵がんスクリーニング事業」の結果が発表されました。(日経メヂカルCancerReview,カバーストーリー1、2017年1月)
まず、危険因子を持つ人に市内の開業医で腹部超音波検査を受けてもらい、疑わしい症例を病院で精査するシステムを作りました。病院ではEUS(USを先端に付けた内視鏡)とCT等を行います。この結果2007年から2014年迄に6475人の疑い症例から399人のがんを発見しました。早期はⅠ期16例、Ⅱ期は17例でした。そして5年生存率約20%を達成しました。全国平均が7.5~7.7%ですから、非常に高い生存率です。
又、スウエーデンの会社と連携して早期(腫瘍)マーカーの探索にも取り組んでいます。連携先のImmunovia社のBorrebaeck氏は、「手術可能なⅠ/Ⅱ期患者に特徴的な25種のタンパク質を特定し、この時期の膵臓がんを96%の精度で検出できる事を確認した。」と述べています。

膵臓は血糖と密接に関連しています。膵臓がんから糖尿病を発症した人もいますので、糖尿病と診断された人はUSとCT検査を受けることをお薦めします。糖尿病(治療中の人も)が急に悪化した人、慢性膵炎の人、家族内に膵臓がんのいる人も高リスクです。

「遅くとも手術不能になる前にみつけたい。」という尾道病院の花田氏らの思いと努力が生存率の大きな改善に繋がったと思います。
症状のない高リスクの人に検査を受けてもらうことがまず第一ですから、一般開業医、特に消化器医の努力が大切です。USは苦痛の無い検査ですが、膵臓はその位置関係から描出が難しい例もあります。市民への啓蒙と、確かなUSの技術と読影力を持った医師の拡充、確保が必要です。この尾道方式が全国に拡がつて膵臓がんの予後が改善される事を願っています。又、新しい腫瘍マーカーが早く実用化されて、臨床の場に登場することが期待されます。(文責 篠原)
2017年01月29日
がん最新情報Ⅵ ー予後の悪い膵臓がんへの挑戦ー

がん最新情報Ⅵ 予後の悪い膵臓がんへの挑戦

膵臓がんの患者数は約4万人で日本の癌の7位ですが、死亡数(2016年の予測)は男性17100人、女性16600人、計33700人で4位です。5年(相対)生存率は7.7~9.1%、10年生存率は4.9%で最も低く、予後の悪いがんです。(国立がん研究センター2016年)しかも、多くのがんは1993年以後生存率が上昇傾向ですが、膵臓がんは横ばいで殆ど改善されていません。

膵臓がんには特有の症状がありません。腹痛、背部痛、痩せてきた、食欲不振、黄疸等はかなり進行してからでてくる症状です。0-Ⅰ期(膵管上皮内がんー2cm以内でリンパ転移なし)で発見されるのはわずか12%で、Ⅳ期(周囲に浸潤/リンパ転移あり)が43%を占めることからも早期診断の困難さが判ります。
又、膵臓はお腹の深い所にあって、簡単に検査ができない事も原因の一つです。 (続く)
(文責 篠原)
2017年01月16日
がん最新情報Ⅴー(続々)遺伝しやすい乳がんとはー
訂正 前回の記事に誤りがありました。下記のように訂正いたします。
遺伝子検査 (誤)2000~3000円→(正)20~30万円
前々回の記事からご覧いただけましたら幸いです。
がん最新情報Ⅴ(続々)遺伝しやすい乳がんとは
アンジェリーナ・ジョリーさんの手術後、何か変化あったか
ジョリーさんの手記は2013年5月にニユーヨークタイムズ誌に掲載されました。その前後で検査を受けた人、切除を受けた人数に変化があったかどうかの調査報告が出ました。
対象は2012~13年に保険に加入していた18~64歳の女性953万人余人です。
遺伝子(BRCA)検査の受診率は掲載前の10万人当たりO.71人/日から後は1.13人/日に増加しました。(相対増加率64%) 増加は12月迄継続しました。(1~4月の15.6人/万人→5~12月の21.3人で37%増加)
切除率は、前4か月は月平均7件/10万人が、後8カ月も同様でした。検査を受けた3万3千人余に限ると、検査後60日内の手術実施率は前4か月の10%が後8カ月は7%と減少しました。検査を受けた人はかなり増加しましたが、予防的切除を考慮すべき変異陽性の人は増えていなかったという結果でした。(ハーバード大、Sunita Desai他 BMJクリスマス号2017)
予防的切除で予後は良くなるか
前々回の記事で2002年から10年で3倍に増加したと述べました。この報告では乳がん特異的生存率及び全生存率に有意な改善はなかったとされています。即ち、予防的に両乳房を切除してもしなくても生存率に差が無かったということです。
今後の日本のあり方
カナダ有数のがんセンターで働く内野三菜子氏の報告です。
「オンタリオ州では保険で賄われるが、遺伝子検査やカウンセリングに厳格な適応、基準があります。(たとえば検査の基準で日本は45歳以下だが、こちらは35歳以下等) ただ“心配だから”だけではだめ。日本でもいずれは保険適用が検討されるでしょう。日本の実情に合った形として普及、定着するにはもう少し考えなければならない事がありそうです。」と記しています。(KUROFUNet 2013年9月)
結局、この疾患について知識の普及と国民の理解を深めた上で、社会の合意が必要という事ではないでしょうか。
(文責篠原)
遺伝子検査 (誤)2000~3000円→(正)20~30万円
前々回の記事からご覧いただけましたら幸いです。
がん最新情報Ⅴ(続々)遺伝しやすい乳がんとは

ジョリーさんの手記は2013年5月にニユーヨークタイムズ誌に掲載されました。その前後で検査を受けた人、切除を受けた人数に変化があったかどうかの調査報告が出ました。
対象は2012~13年に保険に加入していた18~64歳の女性953万人余人です。
遺伝子(BRCA)検査の受診率は掲載前の10万人当たりO.71人/日から後は1.13人/日に増加しました。(相対増加率64%) 増加は12月迄継続しました。(1~4月の15.6人/万人→5~12月の21.3人で37%増加)
切除率は、前4か月は月平均7件/10万人が、後8カ月も同様でした。検査を受けた3万3千人余に限ると、検査後60日内の手術実施率は前4か月の10%が後8カ月は7%と減少しました。検査を受けた人はかなり増加しましたが、予防的切除を考慮すべき変異陽性の人は増えていなかったという結果でした。(ハーバード大、Sunita Desai他 BMJクリスマス号2017)

前々回の記事で2002年から10年で3倍に増加したと述べました。この報告では乳がん特異的生存率及び全生存率に有意な改善はなかったとされています。即ち、予防的に両乳房を切除してもしなくても生存率に差が無かったということです。

カナダ有数のがんセンターで働く内野三菜子氏の報告です。
「オンタリオ州では保険で賄われるが、遺伝子検査やカウンセリングに厳格な適応、基準があります。(たとえば検査の基準で日本は45歳以下だが、こちらは35歳以下等) ただ“心配だから”だけではだめ。日本でもいずれは保険適用が検討されるでしょう。日本の実情に合った形として普及、定着するにはもう少し考えなければならない事がありそうです。」と記しています。(KUROFUNet 2013年9月)
結局、この疾患について知識の普及と国民の理解を深めた上で、社会の合意が必要という事ではないでしょうか。
(文責篠原)
2017年01月12日
がん最新情報Ⅴー(続)遺伝しやすい乳がんとはー
前回の記事からご覧いただけましたら幸いです
(続)遺伝しやすい乳がんとは
遺伝子検査の対象者
日本乳癌学会は2011年に検査を受ける人の基準を次の様に出しました。
・乳癌本人の場合
45歳以下の発症 50歳以下で2度近親者内に2人以上の乳 癌、又は近親者に卵巣がんがいる人 トリプルネガテイブ(ER,PgR、HER2全て陰性)乳癌
・2度近親者内に上記に該当する癌患者がいる人
・家計内に変異が確認された人がいる人
等です。(詳細はhttp://hbocnet.com/)
ー検査を受けるかどうかはご本人の自由です。よく考えて決めましょう。-
遺伝子検査・カウンセリングの受けられる施設
静岡県内では今のところ次の施設を確認しています。
・静岡県立総合病院「遺伝診療科」
・聖隷浜松病院「遺伝相談センター」
・静岡県立がんセンター「がん遺伝外来」
検査は血液検査ですが、保険がきかないので2000~3000円かかります。
詳細は各ホームページを参照して下さい。
遺伝性乳癌や遺伝子変異のある人の心構え
米国では増加しているとはいえ、健全な対側乳房も切除するのは日本では抵抗があるでしょう。温存手術でなく乳房切除にするのも一つの選択です。対側乳房の検索を怠らないことと、発症し易いとされる卵巣がんにも注意を払う必要があります。発症していない人は若い内(25歳位)から定期的に検査を受けると良いでしょう。
全ての人が再発したり発症するわけではありません。“備えあれば憂いなし”です。何といっても自己検診が大切です。自分で早期に見つける努力をしましょう。
(文責 篠原)
(続)遺伝しやすい乳がんとは

日本乳癌学会は2011年に検査を受ける人の基準を次の様に出しました。
・乳癌本人の場合
45歳以下の発症 50歳以下で2度近親者内に2人以上の乳 癌、又は近親者に卵巣がんがいる人 トリプルネガテイブ(ER,PgR、HER2全て陰性)乳癌
・2度近親者内に上記に該当する癌患者がいる人
・家計内に変異が確認された人がいる人
等です。(詳細はhttp://hbocnet.com/)
ー検査を受けるかどうかはご本人の自由です。よく考えて決めましょう。-

静岡県内では今のところ次の施設を確認しています。
・静岡県立総合病院「遺伝診療科」
・聖隷浜松病院「遺伝相談センター」
・静岡県立がんセンター「がん遺伝外来」
検査は血液検査ですが、保険がきかないので2000~3000円かかります。
詳細は各ホームページを参照して下さい。

米国では増加しているとはいえ、健全な対側乳房も切除するのは日本では抵抗があるでしょう。温存手術でなく乳房切除にするのも一つの選択です。対側乳房の検索を怠らないことと、発症し易いとされる卵巣がんにも注意を払う必要があります。発症していない人は若い内(25歳位)から定期的に検査を受けると良いでしょう。
全ての人が再発したり発症するわけではありません。“備えあれば憂いなし”です。何といっても自己検診が大切です。自分で早期に見つける努力をしましょう。
(文責 篠原)
2017年01月12日
がん最新情報Ⅴー遺伝しやすい乳がんとはー

がん最新情報Ⅴ 遺伝しやすい乳がんとは
日本の乳癌は2016年の新規患者数予測では約9万人で女性では1位です。12人に1人が生涯一度はかかるとされ、女性では一番気をつけなければいけないがんです。

がんが乳房に限局されていれば切除手術が中心になります。これには、癌を周囲組織と共に切除する乳房温存手術(3c以下が目安になります)と、全部取ってしまう乳房切除術がありす。両者の治療成績に差はありません。
最近温存手術で良い人が乳房切除を希望する人が増えています。理由は、残った乳房の再発が心配、術後の放射線治療を受けたくない等ですが、切除後の再建手術が保険でできるようになった事も大きいようです。

1998年∸2012年に49万余人の乳癌を調査した外国の報告では、対側の乳房も切除した人は、2002年の3.9%から2012年には12.7%と3倍に増えました(Ann.Surg.Mar.2016)。米では予防的な切除は選択の一つとしてあたりまえになっていると言えそうです。

乳癌患者の5~10%の人にBRCA1/2遺伝子に変異が認められ、切除後も再発率が高いことが判っています。これを遺伝性乳癌といいます。再発の危険性は一般乳癌の3~4倍で、5年以内の再発率は12~20%です。未発症の人ががんになるリスクは40歳で10~20%、60歳で30~45%と高いです(日本乳癌学会HBOC班研究2009年)。
この遺伝子変異は親から子へ50%-2人に1人-の確率で伝わるとされています。この為本人だけでなく家族にとっても非常に悩ましい問題なのです。検査に際してはカウンセリングを受けて、十分に納得することが大切です。