2017年04月30日
がん最新情報Ⅸ 血液だけでがんの早期診断ができる時代が来る!!

がん最新情報Ⅸ 血液だけでがんの早期診断ができる時代が来る!!
がんの早期診断には検診・ドックが奨められていますが、これには“めんどうくさい” “体に負担がかかって辛い”等、何らかの抵抗感がある事は否めません。もし、血液、尿、唾液を少量取るだけで早期診断ができるようになったらどんなに素晴らしいことでしょう。これをリキッドー液体の意味ー・バイオプシーと言います。これが可能となる時代がもうすぐ来そうです。

国立がん研究センターの落谷氏らは2015年「体液中のマイクロRNA(miRNA)測定技術基盤開発プロジェクト」を立ち上げ、2018年度末迄に10種類以上のがんの早期診断を目指す、と発表しました。(第20回国際個別化医療学会)
がん細胞はじめ殆どの細胞が体液中にエクソソームという物質を分泌し、循環しています。この中には核酸(DNAやmiRNA)も内包されています。がん細胞に特異的な分子を検出すれば、早期がんの診断が可能になる訳です。
miRNAを利用して乳がんの解析が現在迄1000例以上と先行しており、感度(がんの人が陽性になる率)、特異度(癌でない人が陰性になる率)共99%以上と非常に高く、直径3mmの乳がんも診断できたとしています。
乳がんは術後10~20年に再発、転移する例もありますが、これは「正常細胞が分泌するエクソソームを乳がん細胞が横取りして、これにより骨髄中で休眠状態を保ち生存していた。」事が判ってきました。
いずれは尿や唾液でも早期診断できるようにしたいとしており、尿に含まれるエクソソームを使って膀胱がんを検出する可能性も示唆されています。

神戸大のグループは血液中の代謝物バイオマーカーを高精度に定量できる分析法を開発し、これによって早期の大腸がん診断予測式を作製しました。バイオマーカーは、ピルビン酸、グリコール酸、トリプトファン、パルミトレイン酸、フマル酸、オルニチン、リシン、3-ビロキシイソ吉草酸の代謝物8種類です。
この結果、感度、特異度共96%を超えたとし、ステージ0~Ⅰ期の早期がんでも高い感度だったとしています。(Oncotarget オンライン版2017年)

肺がんの抗癌剤ゲフイニチブ(イレッサ)の耐性(薬の効果が無くなること)の50~60%はEGFR(上皮成長因子受容体)の「T790M」という遺伝子変異によりおきています。この変異の有無とオシメルチニブ(タグリッソ)の有効性を血液で調べる診断薬「コバスEGFR変異検出キット」が2016年12月に認められました。がん組織を採取できない~むつかしい患者さんにとって、体に負担の無い大きな利点があります。又、エクソソームはがんの増殖、転移を制御したり、悪化に関わることが判っていますので、この方面の研究にも期待されます。

(文責 篠原)
2017年04月09日
がん最新情報Ⅷ がん死亡は減らせるか?-国のがん対策の課題はー
がん最新情報Ⅷ がん死亡は減らせるか?
がんは1981年以来日本の死因第1位です。国は2007年4月「がん対策基本法」を施行し、「がん対策推進基本計画」を策定しました。今年第3期計画を策定します。
当初の「がんによる75歳未満の年齢調整死亡率*の20%減少」の目標は17%減に留まり(2015年予測)、目標を達成できませんでした。次の10年で癌死亡をどのくらい減らせるのか、幾つか課題を考えます。(国立がん研究センターがん対策情報センター 加藤、籐下 医学界新聞 2017年1月2日号を参考にしました。)
*昭和60年の年齢構成を基準にして補正した死亡率
がん予防の観点から
予防の第一は喫煙対策
日本の研究では男性で約30%、女性で5%が喫煙が原因です。特に肺がん死亡の原因は男性70%、女性20%と言われています。受動喫煙による肺がんのリスクは,ない人の約1.3倍高いとの結果がでています。居酒屋やスナックなどの小さい店も全面禁煙にする法案が出されましたが、反対もあり簡単に決まりそうにありません。死亡者数1位の肺がんを減らすには喫煙対策が最重要です。
肥満・運動不足によるリスク
肥満とがんの関係を多くの研究から分析した報告があります。強力なエビデンス(科学的な根拠)があったのは、食道腺がん、胃噴門がん、結腸がん、直腸がん、胆道系がん、膵臓がん、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん、腎臓がん、多発性骨髄腫の11のがんでした。例えば、男性の結腸・直腸がんはBMI*が5増加するごとにリスクは9%上昇、胆道系がんは56%上昇、閉経女性の乳がんは成人期の体重5Kg増加するごとに11%の上昇でした(MariaKyrgiou BMJ2017)。過度の体重増加には気をつけたほうが良いようです。
*BMI(BodyMassIndex) 肥満の程度を示す指標の一つ 体重(Kg)÷身長(m)×身長(m) 標準は18.5~24.9)
がん検診の観点から
2008年から市町村の事業としてがん検診が実施されています。5年以内に受診率50%を目標にしましたが、2013年で40%程度で、外国の70~80%に比べてもかなり低い状況です。
検診方法についても検討を要するものがあります。(肺がん検診については、本ブログ内「肺がん検診は今のままで良いか」をご覧下さい)
最近問題になっているのが乳がん検診です。現在2年に1回マンモグラフィーが推奨されています。しかし、日本人の5~8割に当たる高濃度乳腺は全体が白く映ってしまい、異常が見つけ難いのです。これを受診者に通知している自治体は全国で23と少ないのです(読売新聞2017年2月)。静岡市はじめ県内では未だ対策をとっている所はありません。今後は超音波(US)検査の併用も検討する必要があるでしょう。
がん治療病院の観点から
どこに住んでいてもレベルの高い医療を受けられる事を目的として、国は2001年度に「がん診療連携拠点病院」を創設しました。2017年1月現在400の病院が指定されています。
2008年に静岡県立がんセンターの山口らが現状と課題を発表しました。「機能の全てが期待どうりに、又実質的に稼働しているかと問われれば、否とする施設が多いだろう」 「がん医療の専門医-特に緩和ケア、放射線治療、病理医ー、看護師、技師の慢性的な不足」 「補助金が十分でない」等の問題を指摘しています。その後改善が進んでいると思いますが、実態を把握して、適切な医療が提供されているか検証が必要です。さらに、米国等に比べて遅れているゲノム医療*に代表される先端医療の取り組みも早急に望まれます。
*がん遺伝子解析により、超早期診断や、個々の患者に合った最適な医療の提供
がんになるのは本人の責任か?
タバコは吸わない、お酒は適量、運動もして健康に気をつけていてもがんになる人は少なくありません。「どうして自分が?」と嘆きたくなるでしょう。この答えの一つになる論文がでました。(米ジョンズ・ホプキンス大学 Science 2017年3月24日号)
これによると、「がんの多く、3分の2は偶然の遺伝子の変異に因ずく」 「正常な細胞が分裂してDNAが複製され、2つの新しい細胞ができるたびに多くのミスが生じている」 「肺がんは生活習慣や環境による影響が大きく、65%が喫煙などに起因し、ミスによるものは35%。膵臓がんの77%は偶然の突然変異により発生し、18%が環境因子、5%が両親からの遺伝的要因」 「32種類のがん全体では環境要因は29%にすぎず、どんなに環境や生活習慣に配慮してもがんは防げない」としています。
健康的な生活を心がけていたのになぜ?と悩むがん患者さんには、「がんになったのは本人に責任がない。」が少し慰めになるでしょうか。 (文責 篠原)
がんは1981年以来日本の死因第1位です。国は2007年4月「がん対策基本法」を施行し、「がん対策推進基本計画」を策定しました。今年第3期計画を策定します。
当初の「がんによる75歳未満の年齢調整死亡率*の20%減少」の目標は17%減に留まり(2015年予測)、目標を達成できませんでした。次の10年で癌死亡をどのくらい減らせるのか、幾つか課題を考えます。(国立がん研究センターがん対策情報センター 加藤、籐下 医学界新聞 2017年1月2日号を参考にしました。)
*昭和60年の年齢構成を基準にして補正した死亡率

予防の第一は喫煙対策
日本の研究では男性で約30%、女性で5%が喫煙が原因です。特に肺がん死亡の原因は男性70%、女性20%と言われています。受動喫煙による肺がんのリスクは,ない人の約1.3倍高いとの結果がでています。居酒屋やスナックなどの小さい店も全面禁煙にする法案が出されましたが、反対もあり簡単に決まりそうにありません。死亡者数1位の肺がんを減らすには喫煙対策が最重要です。
肥満・運動不足によるリスク
肥満とがんの関係を多くの研究から分析した報告があります。強力なエビデンス(科学的な根拠)があったのは、食道腺がん、胃噴門がん、結腸がん、直腸がん、胆道系がん、膵臓がん、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん、腎臓がん、多発性骨髄腫の11のがんでした。例えば、男性の結腸・直腸がんはBMI*が5増加するごとにリスクは9%上昇、胆道系がんは56%上昇、閉経女性の乳がんは成人期の体重5Kg増加するごとに11%の上昇でした(MariaKyrgiou BMJ2017)。過度の体重増加には気をつけたほうが良いようです。
*BMI(BodyMassIndex) 肥満の程度を示す指標の一つ 体重(Kg)÷身長(m)×身長(m) 標準は18.5~24.9)

2008年から市町村の事業としてがん検診が実施されています。5年以内に受診率50%を目標にしましたが、2013年で40%程度で、外国の70~80%に比べてもかなり低い状況です。
検診方法についても検討を要するものがあります。(肺がん検診については、本ブログ内「肺がん検診は今のままで良いか」をご覧下さい)
最近問題になっているのが乳がん検診です。現在2年に1回マンモグラフィーが推奨されています。しかし、日本人の5~8割に当たる高濃度乳腺は全体が白く映ってしまい、異常が見つけ難いのです。これを受診者に通知している自治体は全国で23と少ないのです(読売新聞2017年2月)。静岡市はじめ県内では未だ対策をとっている所はありません。今後は超音波(US)検査の併用も検討する必要があるでしょう。

どこに住んでいてもレベルの高い医療を受けられる事を目的として、国は2001年度に「がん診療連携拠点病院」を創設しました。2017年1月現在400の病院が指定されています。
2008年に静岡県立がんセンターの山口らが現状と課題を発表しました。「機能の全てが期待どうりに、又実質的に稼働しているかと問われれば、否とする施設が多いだろう」 「がん医療の専門医-特に緩和ケア、放射線治療、病理医ー、看護師、技師の慢性的な不足」 「補助金が十分でない」等の問題を指摘しています。その後改善が進んでいると思いますが、実態を把握して、適切な医療が提供されているか検証が必要です。さらに、米国等に比べて遅れているゲノム医療*に代表される先端医療の取り組みも早急に望まれます。
*がん遺伝子解析により、超早期診断や、個々の患者に合った最適な医療の提供

タバコは吸わない、お酒は適量、運動もして健康に気をつけていてもがんになる人は少なくありません。「どうして自分が?」と嘆きたくなるでしょう。この答えの一つになる論文がでました。(米ジョンズ・ホプキンス大学 Science 2017年3月24日号)
これによると、「がんの多く、3分の2は偶然の遺伝子の変異に因ずく」 「正常な細胞が分裂してDNAが複製され、2つの新しい細胞ができるたびに多くのミスが生じている」 「肺がんは生活習慣や環境による影響が大きく、65%が喫煙などに起因し、ミスによるものは35%。膵臓がんの77%は偶然の突然変異により発生し、18%が環境因子、5%が両親からの遺伝的要因」 「32種類のがん全体では環境要因は29%にすぎず、どんなに環境や生活習慣に配慮してもがんは防げない」としています。
健康的な生活を心がけていたのになぜ?と悩むがん患者さんには、「がんになったのは本人に責任がない。」が少し慰めになるでしょうか。 (文責 篠原)