2017年08月20日
がん最新情報Ⅻ 早期胃がんに対する内視鏡的切除と外科手術の長期成績

がん最新情報Ⅻ 早期胃がんに対する内視鏡的切除と外科手術の長期成績
胃がんの63%は早期の1期(がんの浸潤が粘膜下層迄で、リンパ節転移は1~2個迄)で見つかっており、適切な治療をすれば100%近く治ります。(10年生存率は95.1%-国立がん研究センター)
早期に発見される胃がんの増加に伴い、内視鏡的治療(ポリペクトミー、粘膜切除術ーEMRー、粘膜下層剥離術ーESDー)の施行率が増加しています。しかし、これで完全に根治できるのか?、再発はないか?、外科手術(胃切除)の方が長生きできるのでは?、という疑問が当然あります。
両者の10年間の成績を比較した論文をご紹介しますので、選択の参考にしていただきたいと思います。

日本胃癌学会作成の「胃癌治療ガイドライン」第5版最新版が2017年にでましたので、どんな病変が適応になるのか見てみましょう。
①絶対適応病変(リンパ節転移の確率が1%未満で、リンパ郭清を伴う胃切除と同じ長期予後が得られているもの)
がんが粘膜内にとどまる分化型がん(悪性度の低いがん)で、潰瘍(瘢痕)*の無いものは大きさに制限なし、あるものは3cm以下
②適応拡大病変(長期予後のデータが不十分なもの)
がんが粘膜内にとどる未分化型がん(悪性度の高いがん)で、大きさ2cm以下
③相対的適応病変
がんが粘膜下層に少し入った(0.5mm厚ーSM1-)分化型がん 患者さんの状態に応じて行うとされている(あくまで標準治療はリンパ郭清を伴う胃切除です)
*潰瘍(瘢痕)がある場合、粘膜下層の繊維化で病変の切除が困難になることがある

この研究はPyoJHらにより2016年に発表されました。(Am.J.Gastroentel.2016Feb;111(2))
早期胃がん(粘膜内、粘膜下層にとどまるがん)に対し1290例の内視鏡切除群と1273例の外科手術群を検討しました。
結果は、10年後全生存率は内視鏡群96.7%、手術群94.9%で差はありませんでした。
10年後の無再発生存率は内視鏡群93.5%、手術群98.2%で、優位に手術群が優れていました。この差は、主に内視鏡群の異時性再発(ある時期をおいて再発してくるもの)の為と考えられました。

内視鏡切除は胃を切除しないので、異時性再発の可能性は当然ありえるわけですが、H.ピロリ菌の除菌や、定期的なフォローによる再治療などで、無病生存率はもっと向上すると考えられます。①の絶対適応と②の適応拡大病変は、内視鏡的切除を選択して良いと思います。
③の粘膜下層に浸潤した相対的適応病変の場合が一つの問題です。年齢、全身状態、合併症の有無等を考慮して決められることですが、主治医とよく話し合った上で、患者さんの意思も尊重されるべきでしょう。
内視鏡的治療でも高い確率で10年間生きられる報告ですので、高齢化社会が進む今後、全身への負担が少ないこの選択をする人が増えていくと思われます。
(文責 篠原)
Posted by みきちゃん at 21:40
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