2018年01月22日
がん最新情報ⅩⅦ 乳がん術後の遺伝子検査の意義

がん最新情報ⅩⅦ 乳がん術後の遺伝子検査の意義
術後に化学療法を行うかどうかは、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、数を元にしたステージ分類(0~Ⅳ期)に加えて、最近は個人個人のがんの生物学的特性を考慮した個別化治療が主流になっています。

日常の実診療では、エステロゲンリセプター(ER)、プロゲステロンリセプター(PgR)、HER2、Ki67、の結果により分類されたものを基本に選択されます。(前回ⅩⅥ「治療法決定に必要な情報」参照)
表ー1 実臨床に用いられる分類と治療法の選択( ( St.Gallen乳癌国際会議、2011年)
ER PgR HER2 Ki67 治療法
Luminal A + + - 低値(〈14% ?) 内分泌治療
Luminal B + ± - 高値(〉20~30% ?)内分泌治療
化学療法
Luminal B + ± + 内分泌治療
化学療法
分子標的治療
(抗HER2薬)
HER2-enriched ー - + 化学療法 分子標的治療
Basal-like - - - 化学療法
これによると、A以外では化学療法が必要とされます。ただ、Ki67の低値、高値を何%とするか確定していないので、AかBかの判断は各医師に委ねられています。

この検査の目的は、早期乳がんの予後の予測と術後化学療法の選択です。日本で可能なのは3種類です。検体はいずれも切除されたがん組織ですので、検査の申し込みは主治医にしなければなりません。又、保険適用ではないので費用は自己負担です。
表ー2 各種遺伝子解析の比較
検査名 解析遺伝子数 適応 リスク判定
OncotypeDX 21 ステージⅠ~Ⅲ(T3N1) 低リスク
(オンコタイプDX) ER+ 中間リスク
高リスク
MammaPrint 70 ステージⅠ~Ⅱ 低リスク
(マンマプリント) 大きさ5cm以下 高リスク
ER+、-
リンパ転移0~3個
95GCBreast 95 ER+ 低リスク
(95GCブレスト) リンパ転移0 高リスク
☆オンコタイプDX
ER陽性の患者さんがホルモン療法を5年間受けると想定した場合の10年間の再発リスクを評価します。再発スコア(RS)は0から100の数値として計算されます。0~17低リスク、18~31中間リスク、32~100高リスクと判定します。又、化学療法の効果も予測します。(低リスクは効果殆どなし、高リスクは大いにあり。)
1万人の早期がん患者でRS0~10の5年間の遠隔再発率は1%未満でした。(欧州臨床腫瘍学会2015年) 3100人の低リスク患者のドイツの試験では、5年生存率99%でした。(52回米国臨床腫瘍学会2016年)
これらの結果をみると、低リスクでは化学療法を回避できる可能性が高いと思われます。日本では年間約1000件行われています。費用は約36万円です。
☆マンマプリント
ER+でもーでも検査可能です。
臨床的に再発高リスクでマンマプリント低リスク群(A群1550人)と、臨床的低リスクでマンマプリント高リスク群(B群592人)の5年無転移生存率を比較した研究があります。A群中化学療法施行例は96.2%、未施行94.7%でわずか1.5%の差でした。B群中化学療法施行例95.9%、未施行例95.0%で有意差はありませんでした。著者は「従来の臨床的高リスク3356例の内化学療法は46%減少した。マンマプリントによって術後多くの患者が便益の少ない治療を避けられる。」としています。(NEJM2016年8月)
しかしこの検査意義に疑問の意見もあります。「臨床的低リスクでマンマプリント高リスク群で化学療法を行うメリットが示されていない。」「5年の結果では不十分。」「10年後に生存率1.5%の差が維持されるか見極める必要がある。」がその理由です。(CIWorks大野2016年11月、岩田同12月)
☆95GCブレスト
日本で開発され、国内で検査できます。オンコタイプの中間リスクも低リスク、高リスクに分類可能です。(詳細はWebサイト「シスメックス」から「Curebest 95GCBreastって何?」検索)

表ー1のAでも、オンコタイプDXが中間リスク以上(RS25以上)、マンマプリント高リスク、悪性度3、リンパ転移4個以上の例は化学療法の追加を考慮してもよいとされています。
治療に迷ったときは遺伝子検査を受けて、予後や薬の効果を知って納得して選択したいものです。一時の出費を惜んで後悔するのは避けたいですね。早く保険適用になって必要な人が気楽に受けられるようになることを願っています。
(文責 篠原)