2017年11月05日
がん最新情報ⅩⅣ 肝がんの原因が変わりつつある

がん最新情報ⅩⅣ 肝がんの原因が変わりつつある -非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に要注意ー
肝がんの多くは肝炎ウイルスの長期にわたる持続感染が原因で、B型肝炎約15%、C型肝炎約60%とされています。
しかし最近アルコールをあまり飲まない人で脂肪肝、肝硬変から肝がんを発症する病気が注目されています。

1991年から2015年迄全国53施設の初発肝がんの調査結果が発表されました。(第25回日本消化器関連学会2017年10月 東京大学 建石氏)
1991年~2010年(前期)の非B非C肝がん患者は4万5776例で全肝がん中の割合は10%以下から24%に増加しました。2011年~2015年(後期)の新規患者では2015年時点で32%まで増加していました。「男性はアルコール摂取量1日20g以下の人が37%と最多で、次いで100g以上の多飲者は15%でした。女性は20g以下の人が90%で、ほぼNASHと言ってよい。」と分析しています。合併疾患(後期)は糖尿病51.6%、高血圧58.6%と高率でした。
肥満の程度を示すBMI(体重÷身長m×m)は前期23.9、後期24.2で、意外と肥満者が多くない結果でした。

アルコール摂取量が1日20g(ビール500ml,日本酒1合)以下でも脂肪肝→肝硬変→肝がんと進行する病気で、非アルコール性脂肪肝の約1割といわれています。確定診断には肝生検が必要ですが、組織像はアルコール性肝炎に酷似しています。
診断基準は次のように示されています。(new臨床便覧 2017、NASH/NAFLD)
*ALT(GPT)100以上
*メタボリックシンドローム等の危険因子を伴う
*食事や運動によっても改善されないALTの上昇
*血小板の減少(肝の繊維化をよく表す)、肝繊維化マーカー(4型コラーゲン7S,ヒアルロン酸等)の上昇
岡上氏(大阪府済生会吹田病院)は、「BCウイルスによる肝硬変は血小板が10万を切る事が多いが、NASHでは15万くらいで肝硬変になっていることが多い。18万を切ったら肝臓専門医に受診を勧める。ALTもBC型より高値を示さず、多くは80~160以下。」と述べています。

現在NASHには特効薬はありません。日本消化器病学会のガイドライン(2014年)では、肥満のある人には食事、運動によるー7%の減量を奨めています。(組織学的に改善の報告あり) 肥満や合併疾患の無い人にはビタミンEを薦めています。糖尿病の人にはピオグリタゾン(アクトス)、SGLT2阻害薬(肝繊維化の抑制効果)、高血圧の人にはアンジオテンシン受容体拮抗剤(ARB)が有効としています。

薬でBC肝炎ウイルスが制圧できるようになったので、肝がんの原因としては漸減していくでしょう。岡上氏は、「2024年ころにはNASHを含む肝炎ウイルス以外の原因による肝がんが最も多くなるだろう。」と予測しています。遺伝的素因(遺伝子)も重要視されていますし、お酒をそう飲まなくても太っていなくてもなってしまうとは厄介な病気です。
糖尿病や高血圧がある人は、肝機能の状態や脂肪肝、肝繊維化の有無に十分注意していく必要がありそうです。
>(文責 篠原)